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Web講演
今回は、会員の皆さんより質問の多かった『日本の釣り場環境の現状について』
NPO法人日本釣り愛好者連盟 代表理事 山下茂 がお答えします。


日本の釣り場環境の現状について!

NPO法人日本釣り愛好者連盟 代表理事 山下 茂

はじめに

 日本は四方を海で囲まれ、また、内陸は多くの河川・湖沼に恵まれており、釣り人にとっては最高の釣り場環境といえるでしょう。しかし、ここ数年釣りに伴う釣り糸・ルアー及びビン缶等のゴミにより、釣り場環境は著しく損なってきていますが、釣り人たちはこの状況を無視し続けてきました。このままで行くと釣り場環境は破壊され最悪の状況となってしまいます。早急により適切な対応が求められています。

釣りによる環境破壊

 釣りは自然の中で誰でも気軽に楽しめる最高のレジャーです。自然と接する機会が少ない現代の青少年にとっては、自然の尊さやメカニズムを学べるこの遊びは、野外教育として最適といえるでしょう。青少年から年輩の方まで愛好者の年齢層は幅広く、女性の姿も普通に見られるようになりました。海・湖の釣り場は、毎日多くの釣り人たちで賑わっております。しかし、釣りは自然が相手の遊びですから、釣り人もまた魚を釣るという感動を得ると同時に、自然を痛め付けていることも否定できません。環境を破壊しようという意思で釣りをする人はいませんが、どんなに釣りが上手な人でも、釣り針が根掛りはしますし、ワーム(疑似餌)を魚に取られることもあります。そして、水の中なので回収されることなくそのまま放置されてしまいます。そんな個人の小さな環境破壊に、釣り人はこれまで目を背けてきました。

 そこで、これから考えていかなければならないのが“釣り人と自然の共存”です。多くの愛好者を夢中にさせる釣りを守っていくために、何をしなければならないのか! 日本釣り愛好者連盟は、まず、釣り場は釣り人の手で守るべきであり、釣り人が汚した自然は、釣り人自らが取り戻すべきだと考えています。

湖底清掃

 当連盟の協力団体であるNPO法人日本釣り環境保全連盟では、これまでに、神奈川県本牧海づり施設、山梨県河口湖など全国の釣り場の湖底清掃を計56回実施しました。ダイバーによって湖底清掃をすると、どこの釣り場も共通して言えることは、あまりのワーム・釣り糸の多さに驚くことです。地上からはゴミも無くきれいな水面に見えても湖底に潜って見ると、空き瓶・空き缶・釣り具のゴミで一杯です。水の中は表面から見えないため、ゴミが回収されずどんどん蓄積されています。このままでは水の中は、ゴミで一杯になってしまいます。

 水中の作業は、空き瓶・空き缶の他に、釣り針の付いた釣り糸・ルアーが有り非常に危険であるため、湖底清掃になれたダイバーが釣り針に気をつけながら、ゴミを回収しなければなりません。気をつけていても釣り糸がダイビング機材に絡まったり、釣り針が手や体に刺さってしまいます。また、釣り糸やルアーを袋に回収しようとしても、釣り針が袋にかかり非常に困難な状況です。また、水中は視界も悪いため、地上でゴミ拾いをするように遠くからゴミが見えるわけではなく、ゴミのすぐ近くに顔を近づけなくては、ゴミを確認して回収することができません。

 湖底清掃と一口に言っても、その清掃場所の条件により清掃作業方法がかなり違ってきます。河口湖のように比較的水の流れの少ない湖では、水中の汚れ等が沈殿し湖底に堆積しているために、水をかき混ぜるとまったく見えなくなってしまいます。一人のダイバーが通過した後は、水が濁ってしまいしばらく清掃活動ができないので、ダイバー同士が間隔をとり、なるたけ水を濁らせないようにしてゴミ回収作業をしなくてはなりません。この様な厳しい条件の中での作業のため、一度に回収できるゴミの量は限られてしまいます。

 また、茨城県霞ヶ浦では、あまりに水中視界が悪すぎて、目視でのゴミ回収は危険が多く困難だと判断し、回収作業を断念しました。今後バキューム等の器具を使用し、海底のヘドロ・釣り具等のゴミの実態把握及び清掃が必要と思われます。

 横浜の本牧海づり施設や大黒海づり公園の場合は、潮の流れがあるために浮遊するゴミは沖へ流されてしまい見た目にはきれいと勘違いしてしまいますが、そのゴミは海のどこかを流れているのです。流されていないゴミには、貝類がびっしり付着しており海底の一部となりつつあります。

本牧海づり施設、大黒海づり公園

本牧海づり施設の海底清掃
 本牧埠頭突端にあるこの施設は、釣り桟橋施設や公園の環境整備が、とても行き届いているところです。清掃当日は曇天、朝から寒い日でしたが、潜行を開始して水深約18m位までは視界良好で水温も14℃程度で、ゴミの回収作業には最適と思われました。岸壁側と桟橋直下付近の水深9m位までは海底は緩やかに起伏があり、以降はべた底(砂地)が続いている状態、海底には貝殻が絨毯の様に敷き詰められている感じです。ここに釣り針や釣り糸が絡まっています。その他、ビール瓶やジュースの空き缶、釣り餌のプラスチック容器、釣り具類が数多く散乱し、特に釣りに使われるジェット天秤が多く、それをつなぐ釣り糸が太い為、ダイバーの力では切れない状況でナイフが必要でした。季節柄水温が低かった為か、メバル・アイナメ等が多く生息していました。

大黒海づり公園の海底清掃
 横浜市としても、海釣り桟橋直下の海底清掃は、今回が始めてと言うことでした。当然、我々も初めて海釣り桟橋直下に潜行させて頂きました。桟橋直下の海底にはビールの空き缶、釣り餌のプラスチック容器、釣り具類が多く散乱堆積していました。この施設ではビールの販売はしていないにもかかわらず、海底にはまだ新しいビールの空き缶が多く散乱していました。釣り人が自ら持ち込むゴミを自ら持ち帰るという、最低のマナーを守ることが大切と再認識しました。公園のテトラポット付近の岩場には、メバル・シマダイ・カサゴ・アイナメ等が多く生息していました。海底にはヘドロもなく、貝類(からす貝)が多く生息しています。
 桟橋南側の海底、桟橋より10m沖までは、カラス貝がびっしり覆い、そこに多くの釣り具がゴミになっています。竿も古いものにはラインが絡まり、そこに貝が付着して、岩のようになっている箇所が沢山あります。新しいゴミに関しては回収できましたが、古いものは回収できませんでした。
 桟橋北側は南側と異なり潮ダマリのような場所があり、15m四方がまるでゴミ箱をひっくり返したような状態になっています。今回一部を清掃しましたが、全てを回収することはできませんでした。

 本牧海づり施設ゴミ回収量  44kg
 大黒海づり公園ゴミ回収量 151kg

 今回回収できないゴミは次回の清掃作業まで海底に残っている訳です。予想では近辺に数トンのゴミが放置されていると思われます。この様なゴミの回収作業は、定期的に行わなければ意味がありません。これからも、施設へ釣りに来る市民の為にも、海底のゴミ回収作業を定期的に実施する必要があります。

エコタックルの使用

 湖底清掃活動をすることにより、活動地域の湖底のゴミは確実に減ってきてはいますが、協力団体の日本釣り環境保全連盟の活動だけでは日本中の釣り場の今も増え続けているゴミの量を処理することはできません。釣り場の環境を保全するために一番重要な事は、まず釣り人がゴミを出さないようにすることです。しかし、日本各地の有名な魚釣り場で、釣り人たちの周辺に目をやると、心無い人が放置した釣り糸・釣り針等が無数に散乱しています。しかも、釣り人たちはその放置された釣り糸・釣り針に気がついていても、ゴミを回収することもなく、他人事のように釣りを続けています。すべての釣り人のマナー向上が必要不可欠です。

 そして、マナーが良くゴミもきれいに片付ける釣り人も、気をつけていてもしてしまう根掛り等による釣り具を仕方なく水中へ放置してしまう問題があります。水の中に捨てられたゴミは、地上で直ぐ目に付くゴミと違い、やがて見えなくなってしまうため、罪悪感がすぐに薄れてきてしまいます。

 水中に放置されたワーム(疑似餌)等のプラスチックから水中に溶け出す環境ホルモンの問題、そして、たびたびニュースになる水鳥に絡まる釣り糸の問題に対して、日本釣り愛好者連盟では設立当初から、もっと環境にやさしい釣り具はないかと考えておりました。各釣り具メーカーには、エコタックル(環境にやさしい釣り具)の開発を、釣り人にはエコタックルの使用を呼びかけてきました。当連盟がエコタックル普及を啓蒙するようになってから、徐々にエコタックル商品も種類が増えてきて、エコタックルを使用する釣り人も多くなってきました。

 現在では、エコタックル使用を義務付ける釣りの大会も増えてきました。日本最大のバスフィッシング団体である日本バスクラブ、そして山梨県河口湖漁業協同組合では、エコタックル使用を限定する大会を開催するようになりました。

 今後すべての釣り具がエコタックルになれば、これまでのような釣り具からの環境ホルモンの水中への溶け出しの問題もなくなり、環境にやさしい自然素材に分解してしまうため、湖底のゴミの増加も少なるので、今後継続して湖底のゴミ回収作業をすることにより、以前のようなすばらしい環境の釣り場になることでしょう。

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